中央線の乗客は冷静だった

 一週間ばかり前のことである。

 東京都の東西をほぼ真一文字に横切る中央線。開かずの踏み切りも多く、南北分断線となじる向きもある。もっともあんなルートを通せたのは、建設当時、辺りが田畑(でんぱた)・荒地だらけだったからだろう。ただいま高架化大工事が進行中である。

 この中央線、とにかくよく止まりよく遅れる。その朝も既にやや遅れ気味だった。
 通勤ラッシュのまっただ中で、乗ったり降りたりには力ずくで頑張らないといけない状況だ。その満員汗だく電車が、とある駅に到着する直前にすーっと止まる...、ああまた停止信号か、とため息をついた。と思ったら、ふいっと電気が消えたんである。まずい車輌故障かも、だとすると長びくなあ。

 アナウンスが入る。停車した時に、パンタグラフがちょうど架線と架線の間に止まってしまい、電気供給が足りなくなったらしい。(そんな偶然もあるものか...って、感心している場合ではない。)
 朝の明るい時間なので照明がないのは構わないが、空調がきかないのはやばいな、と思った瞬間に女性の声がした。「すみません気分が悪い方がいらっしゃるんです。席を変わってあげて下さい。」無言で席をゆずる気配がする。続いて男性の声。「窓が開けられそうなら開けてもらえますか?」すぐに空気が流れだすのを感じた。何カ所かで窓が開いたのだろう。その間、無駄ロや騒ぎたてる声は一切、聞こえなかった。ギュー詰めの車内で、乗客は実にまったく冷静そのものだった。

 間もなく、「蒸し暑い場合は窓開けにご協力下さい」の車内放送があり、その後すぐに電車は動き出した。駅に到着すると空調も戻った。

 みみずが乗っていた車輌が特別静かだったのか? まあ、通勤時間帯の中央線利用者は、この程度のことには慣れているっちゃあそれまでだが。
 意外に、人間ってパニックにならないものだなと、あの場にいた皆さんの連携プレーと人間力に、賞讚を送りたい。
 (ちなみに遅刻しました。職場の人々には、「中央線だもんねえ」と笑ってゆるされました。)

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